でんた丸ブログ

契約にリースが含まれているか否か(その4)

今回は、顧客A社が、ガスの貯蔵タンクを保有するサプライヤーB社との間で、B社が指定する貯蔵タンクにガスを貯蔵する契約を締結するケースを取り上げます。

1.具体例

以下の例で、資産は特定されているといえるでしょうか。

・貯蔵タンク内は物理的に区分されておらず、A社は、契約期間にわたりB社が指定する貯蔵タンクの容量の70%まで、ガスを貯蔵する権利を有している。

・貯蔵タンクの容量の残りの30%については、B社がガスを貯蔵することもできるし、他の顧客にガスを貯蔵する権利を与えることもできる。

2.規範

この例では会計基準第7項が規範となります。すなわち、「顧客が使用できる資産が物理的に別個のものではなく、資産の稼働能力の一部分である場合には、当該資産の稼働能力部分は特定された資産に該当しない。ただし、顧客が使用することができる資産が物理的に別個のものではないものの、顧客が使用することができる資産の稼働能力が、当該資産の稼働能力のほとんどすべてであることにより、顧客が当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している場合は、当該資産の稼働能力部分は特定された資産に該当する。」

3.当てはめ

A社が使用できるB社が指定する貯蔵タンクの容量の70%は、物理的に別個のものではなく、また、貯蔵タンクの容量の70%は貯蔵タンクの容量全体のほとんどすべてに該当しません(99.9%なら、ほとんどすべてに該当します)。A社が使用することができる資産の稼働能力は、当該資産の稼働能力のほとんどすべてに該当しないため、A社は貯蔵タンクの使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有することとはなりません。

4.結論

契約においてA社が使用できる稼働能力部分は、特定された資産に該当せず、その結果、当該契約にはリースが含まれていないこととなります。

契約にリースが含まれているか否か(その3)

前回と同様に、サプライヤーが、①使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を有し、かつ、②資産を代替する権利の行使により経済的利益を享受する場合には、当該資産は「特定された資産」に該当せず、当該契約にはリースが含まれないことになる、という規範(会計基準第6項)に関連する具体例をみてみます。

【「資産が特定されず、契約にリースが含まれていない」と判断される具体例】

1.顧客A社は、3年間にわたり、自社の商品を販売するために空港内の搭乗エリアにある区画を使用する契約を、空港運営会社であるサプライヤーB社と締結した。A社が使用できる面積及び割り当てられた区画は、契約で指定されている。

2.空港内には、利用可能で契約に定める区画の仕様を満たす多くの区画が存在する。B社は、A社に割り当てられた区画を使用期間中いつでも変更する権利を有しており、状況変化に対応するようにA社に割り当てた区画を変更することで、空港内の搭乗エリアにおける区画を最も有効に利用でき、経済的利益を得ることとなる。

3.A社は、商品を販売するために、容易に移動可能な売店(A社が所有)を使用することが求められている。A社に割り当てた区画の変更に関連するB社が負担するコストは限定的であるため、区画の変更によるB社の経済的利益はコストを上回ると見込まれる。

【「資産が特定される」と判断される具体例】

・上記2と3の太字部分を次のとおり変更すると、当該資産が「特定された資産」に該当するという結論に変わります。

すなわち、

2.B社は、A社の移転から生じるコストを全額負担する必要がある。

3.B社が当該移転コストを上回る経済的利益を享受することができるのは、B社が新たな大口テナントと小売エリア内の区画を使用する契約を締結したときのみであり、A社との契約時点において、このような状況が生じる可能性は高くないことが見込まれる。

上記の2つの例はともに、A社が外観上、契約で指定され割り当てられた区画で事業をしているという点において変わりがありません。しかしながら、B社が、冒頭に述べた「②資産を代替する権利の行使により経済的利益を享受する」といえるのかという経済的な判断により、当該資産が「特定された資産」に該当するか否かという結論が左右され、ひいてはリース会計基準が適用されるかどうかに影響することになります。

 

契約にリースが含まれているか否か(その2)

今回も、資産が介在するサービス契約にリースが含まれているか否かを具体例で検討します。なお、リースの判定前なので、前回と同様に、「借手」ではなく「顧客」、「貸手」ではなく「サプライヤー」という用語を用います。詳細は、ASBJが公表している設例をご覧ください。

【具体例2】
・顧客A社は、5年間にわたり契約で指定された鉄道車両を使用する契約を、貨物輸送業者であるサプライヤーB社と締結した。
・A社は、使用期間全体を通じて当該指定された鉄道車両を独占的に使用することができる。
・A社は、使用期間全体を通じて当該指定された鉄道車両を自由に使用でき、鉄道車両の使用を指図する権利を有している。
・B社は、保守又は修理が必要な場合、鉄道車両を入れ替えることが求められるが、それ以外の場合には鉄道車両を入れ替えることはできない。

1.資産が特定されているか否かの判断について
(規範定立)
適用指針第6項によれば、サプライヤーが、①使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を有し、かつ、②資産を代替する権利の行使により経済的利益を享受する場合には、当該資産は「特定された資産」に該当せず、当該契約にはリースが含まれないことになります。
(当てはめ)
本件では、①B社が鉄道車両の入れ替えができるのは、保守又は修理が必要な場合に限られるため、B社は使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を有していません。
よって、当該資産は「特定された資産」に該当します。

2.資産の使用を支配する権利が移転しているか否かの判断について
(規範定立)
適用指針第5項によれば、顧客が、以下の①及び②をいずれも満たす場合に、顧客に「特定された資産の使用を支配する権利」が移転しているといえます。
①顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している。
②顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している。
(当てはめ)
本件では、①A社は、5年の使用期間全体を通じて当該指定された鉄道車両を独占的に使用することができるため、5年の使用期間全体を通じて当該鉄道車両の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しているといえます。また、②A社は、使用期間全体を通じて当該指定された鉄道車両を自由に使用でき、当該鉄道車両の使用を指図する権利を有しています。
よって、A社に「特定された資産の使用を支配する権利」が移転しているといえます。

3.結論
以上から、当該契約において、リースが含まれていると判断されます。

契約にリースが含まれているか否か(その1)

今回は、資産が介在するサービス契約にリースが含まれているか否かを具体例で検討します。なお、リースの判定前なので、「借手」ではなく「顧客」、「貸手」ではなく「サプライヤー」という用語を用います。詳細は、ASBJが公表している設例をご覧ください。

【具体例1】
・顧客A社は、5年間にわたり所定の数量の物品を所定の日程で輸送するサービス提供を、貨物輸送業者であるサプライヤーB社に依頼する契約を締結した。この輸送量は、A社が5年間にわたり10両の鉄道車両を使用することに相当するが、当該契約では使用する鉄道車両の種類のみが指定されている。
・B社は、自らが所有する鉄道車両の中から、輸送する物品の日程及び内容に応じて使用する鉄道車両を決定する。

(規範定立)
適用指針第6項によれば、資産が契約上明記されていたとしても、サプライヤーが、①使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を有し、かつ、②資産を代替する権利の行使により経済的利益を享受する場合には、当該資産は「特定された資産」に該当せず、当該契約にはリースが含まれないことになります。

(当てはめ)
本件では、➀B社は、複数の鉄道車両を有しており、A社の承認なしに鉄道車両を入れ替えることができるため、B社は、使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を有しています。また、➁B社は、業務の効率化の観点から、鉄道車両を他の鉄道車両に代替することから生じる経済的利益を、そうすることから生じるコストを上回るよう、どの鉄道車両を使用するかを決定することができ、鉄道車両を代替する権利の行使により経済的利益を享受しているといえます。

(結論)
以上から、当該契約において資産は特定されておらず、リースは含まれていないと判断されます。

リースの定義と識別

今後、新リース会計基準について各論を述べていきますが、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」を「会計基準」、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」を「適用指針」と略します。

リースの定義:原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分(会計基準第6項)

「契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する」(会計基準第25項)とされ、リースの識別が求められます。この識別にあたっては、①資産が特定され、かつ、②特定された資産の使用を支配する権利を移転する場合に、契約はリースを含むことになります(同基準第26項)。

上記➁については、顧客が以下の(1)及び(2)をいずれも満たす場合に、顧客に「特定された資産の使用を支配する権利」が移転しているといえます(適用指針第5項)。

(1)顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している。

(2)顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している。

※ リースの判定前なので、「借手」ではなく「顧客」となっています。

このように、リースや賃貸借以外の契約形態で例えば、資産が介在するサービス契約のなかに、新たにリース会計の対象となるものがないかを検討する必要があります。具体例は次回ご紹介します。


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