でんた丸ブログ
国税庁通達の効果
憲法84条では、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と定められており、憲法において租税法律主義という原則が確立されています。しかしながら、法律に定められていることはわずかにすぎず、重要なことが法律以外の政省令や国税庁通達に書かれているというのが現状です。そして申告納税制度の下、税務の専門家ではない多くの納税者は、国税庁通達や国税庁職員が執筆した「質疑応答集」等の解説に基づいて申告納税を行っています。そこで、今回は国税庁通達の拘束力についてみていきます。
国税庁が発出した通達には、基本通達や個別通達といった法令解釈通達だけでなく、例えば国税庁長官が各国税局長、沖縄国税事務所長宛てに平成12年7月3日付けで発出した「申告所得税及び復興特別所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」等の事務運営指針も含まれます。これらの国税庁長官の発出した通達は、税務職員に対する命令(講学上の行政規則)として行政組織内部でしか拘束力を持たず、法規命令とは異なり対国民との関係では拘束力が及びません。しかしながら、通達は公的見解であるため、申告時の通達に従って申告納税をすれば、申告後に通達改正がなされ更正の賦課決定を受けた場合でも、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」が認められ過少申告加算税は課されません(最判平成27年6月12日参照)。
(注)国民は通達に拘束されないため、裁判所に訴えて通達のルールを争うことはできます。しかしながら、争った結果、裁判所が通達と同趣旨のルールを採用した場合には、多大なコスト(労力と時間)だけがかかることとなるため、実際問題として納税者は通達を目安に行動するという現象(いわゆる「通達行政」)が生じることになります(通達の外部効果)。
フリンジ・ベネフィット通達(その2)
フリンジ・ベネフィット通達には前回ご紹介した所得税基本通達以外にも、当該基本通達を補完する個別通達が多く存在します。例として「所得税基本通達36-30の運用について(法令解釈通達)」が挙げられます。
非課税とする場合を定めるフリンジ・ベネフィット通達は、法律の建前よりも納税者に有利なルールであるため、当該ルールを争う納税者がおらず、結果として通用しているという側面があります。また、法律の建前よりも納税者に有利な通達に納税者が従っている状態が長年継続し、納税者の間に法的確信をもって定着すると、行政先例法が成立することとなります。そして、課税庁が行政先例法と異なるルールに変更する場合には、もはや通達改正ではなく法律を制定する必要があります。しかしながら、行政先例法が成立しているか否かの判断は、納税者や課税庁には困難であり、最終的には裁判所の判断を待たなければ分からないという難点があります。つまり、課税庁がまだ行政先例法は成立していないと判断し、納税者に不利な内容へと通達改正した場合において、納税者が行政先例法は既に成立していると判断し改正後通達に基づく課税処分を争うときには、納税者は行政先例法の成否につき裁判所の判断を待たねばなりません。そして、納税者が裁判所で争うコストが多大で割に合わないと判断する場合には、結局、裁判には至らずに改正後通達が通用していくという現象が生じることになります。
なお、フリンジ・ベネフィット通達により非課税とされるフリンジ・ベネフィット(追加的給付)は、給与所得に係る源泉徴収義務を定めた所得税法183条1項にいう「給与等」に該当しないため、フリンジ・ベネフィットの支払者は源泉徴収義務を負わないと解されています。現実問題として源泉徴収が困難な場合も多いため、妥当な解釈と思われます。
フリンジ・ベネフィット通達(その1)
フリンジ・ベネフィットとは、通常の給与とは別に使用者から従業員に追加的になされる給付のことをいいます。以下がその例になります。
・会社設立 ● 周年記念、勤続 ■ 年報奨時の記念品
・社員食堂での格安の食の提供
租税法律主義(憲法84条)から導かれる合法性の原則、すなわち課税庁は法律の定めのとおりに執行しなければならず、法律の定めより多くは勿論、少なく課税・徴収することも許されないという考え方からすれば、フリンジ・ベネフィットも給与所得(所得税法28条1項)として課税されそうです。しかしながら、実際の執行においては、フリンジ・ベネフィットは広い範囲で非課税とされており、それを裏付ける所得税基本通達が多くあります(同通達36-21ないし33、36-38の2等)。立法ではなく、通達レベルで非課税の領域を作出している理由として、以下の点が挙げられます。
・少額不追及の考え方からくる課税現場での執行の不足。
・国民感情に配慮した課税現場での執行の不足。
・フリンジ・ベネフィットの時価評価にかかるコストが大きいことが多い。
このように当該領域の執行の場面では、法律は建前にすぎなくなっています。
(注)フリンジ・ベネフィットを非課税とする法律上の根拠として、例えば所得税法9条1項5号・同法施行令20条の2(通常の通勤手当)等もあります。
宝くじの当せん金
宝くじの当せん金については、当せん金付証票法13条に「当せん金付証票の当せん金品については、所得税を課さない。」と規定されており、非課税となります。なお、この条文は後記の12条とともに特別措置とされており、所得税法9条により非課税されているわけではありません。
同法では、他に以下の内容の規定があります。
・5条1項
当せん金付証票の当せん金品の金額又は価格の総額は、その発売総額の五割に相当する額をこえてはならない。
➡ 令和6年度は、発売総額7,598億円の46.5%にあたる3,529億円が、当せん金として当せん者に支払われました。なお、発売総額の36.2%にあたる2,750億円が、発売元である全国都道府県及び20指定都市に納められ、公共事業等の支出に充てられました。
・5条2項
一当せん金付証票の当せん金品の最高の金額又は価格は、証票金額の五十万倍に相当する額を超えてはならない。ただし、総務大臣が当せん金付証票に関する世論の動向等を勘案して指定する当せん金付証票については、一当せん金付証票の当せん金品の最高の金額又は価格は、証票金額の二百五十万倍に相当する額を超えない範囲の額とすることができる。
➡「年末ジャンボ宝くじ」における一当せん金付証票の価格は300円なので、当せん金品の最高の金額は、原則、150百万円を超えることはできません。もっとも、上記但書が適用されると、750百万円を超えなければよいこととなり、現状、年末ジャンボ宝くじの1等の当せん金は700百万円となっています。なお、1等の前後賞の当せん金は、150百万円となっているので、1等・前後賞合わせると、当せん金は1,000百万円となっています。
・6条7項
何人も、当せん金付証票を転売してはならない。
・12条
当せん金付証票の当せん金品の債権は、これを行使することができる時から一年間行使しないときは、時効によつて消滅する。
ノーベル経済学賞に係る賞金の所得分類
非課税所得の規定である所得税法9条1項13号ホには、「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」と書かれており、ノーベル基金が授与する物理学賞、化学賞、生理学・医学賞、文学賞、平和賞に係る賞金は、同条文により非課税とされます。一方、ノーベル経済学賞はノーベル基金が授与する賞ではなく、スウェーデン国立銀行が賞金を拠出する「アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞」であるため、同条文は適用されず、一時所得(所得税法34条)に区分され非課税とはなりません。所得税法9条1項13号イないしへに列挙されたものが非課税となる根拠は、文化の向上、学術の奨励政策にある点に鑑みると、日本において経済学は文化の向上に直結しない又は学術として認められていないとも考えられます。イギリスの女性の経済学者であるジョーン・ロビンソン(1903~1983)が1955年に、経済学を学ぶ目的は「いかにして経済学者に騙されるのを回避するかを知る」点にあるという発言をしたことが思い出されます。
もっとも、日本では未だノーベル経済学賞の受賞者はおらず、初の受賞者が誕生した際には、1949年に湯川秀樹氏が初のノーベル物理学賞を受賞してから賞金を非課税とする旨の立法が急いでなされたのと同様の立法化作業が開始するのかもしれません。










