でんた丸ブログ

有価証券報告書の定時株主総会前の開示

今までは3月決算の上場企業であれば、6月下旬に定時株主総会が開催され、当該総会の日に有価証券報告書が提出・公開されるという実務がありました。しかし、これでは株主が有価証券報告書を閲覧し、株主総会における議案に対する賛否について態度を決するに当たり、十分な時間を確保できないという問題点がありました。そこで、有価証券報告書を株主総会の日の3週間以上前に開示しようという運動が、機関投資家からの要望を発端として、活発化しています。そうなると、外部監査人による金融商品取引法監査の時間を十分に確保する要請もあるため(当該監査を受けた財務諸表を有価証券報告書に記載する必要があります。)、有価証券報告書の作成の前倒しではなく、株主総会の日を後倒しにしようということになります。

ここで配当決議は株主総会決議事項とされており(会社法454条1項)、また、基準日から3カ月以内に株主総会を開催する必要がある(同法124条2項)ため、株主総会の日を後倒しにするとなると、配当基準日を議決権基準日と共に変更することとなり、配当の権利確定や配当金の支払いが従来より遅れることになります。

もっとも、会社法459条1項という特則により、同項所定の会社は配当決議を定款の定めにより取締役会決議事項にすることができます。この場合には、配当基準日を議決権基準日に合わせて後倒しする必要はなく、従来どおり期末日を配当基準日にすることが可能となり、配当の権利確定や配当金の支払いを従来どおりのスケジュールで行うことが可能です。現在、上場企業の約半数で、配当決議を取締役会決議事項にしています。

なお、米国では、配当は株主総会決議事項ではなく、株主が、役員の選任議案への賛否を通して配当決議に影響力を及ぼすという仕組みになっています。

道をひらく

以前紹介した経営の神様と呼ばれる松下幸之助が執筆した本の中には、戦後2位のロングセラーで、今も多くの人に読み継がれている随筆集があります。それが1968年に出版された『道をひらく』です。この本では、以下の3点が生きる上で重要とされています。

・素直な心=自分の利害を超えた利他の心

・志を立てる

・真剣である→失敗から学ぶ前向きな姿勢

当たり前と考えていても、当たり前に実行することがなかなかできないからこそ、長い間、座右の書として重宝されてきたのでしょう。

縦串と横串

現横浜市長である山中竹春氏は、市長となる前は、横浜市立大学の医学部教授でしたが、専門は、データサイエンスです。データサイエンスは、統計学とコンピューターによる計算(情報学)の2要素から成り立っている学問であるところ、医学部・経済学部・工学部などに、データサイエンスの1要素である統計学を専門とする研究者がそれぞれ所属して、教育・研究を行っているというのが従来からの日本の現状でした。統計学という方法論を専門とする統計学部が米国には従来からある一方で、日本ではそのような学部は今までなかったのです。しかし、今日ではIT人材不足を懸念して、2017年の滋賀大学におけるデータサイエンス学部の開設を皮切りに、様々な大学でデータサイエンスの専門学部が誕生しています。

2022年度の情報処理推進機構の調査によると、日本企業では、ITに見識のある役員の割合が3割未満というグループが全体の7割と大多数を占めており、ITに見識のある役員の割合が5割合以上というグループは全体の2割未満とかなり少数派です。一方、米国企業では、ITに見識のある役員の割合が5割合以上というグループが、全体の4割も占めており、ITに見識のある役員の割合が3割未満というグループと同じ位あります。

これから経済において高い生産性が求められる中では、AIを活用して、信頼できるデータ分析に基づいて意思決定のできる経営者の重要性が益々高くなります。個別産業分野を縦串とすれば、データサイエンス等の分野横断的な方法論を武器にうまく横串を通すことのできる人材の価値が今まで以上に高まっていくでしょう。

AIの限界

前回は、AIが仕事の生産性を高めるというプラスの側面について書きました。コンピュータは昔から計算や記憶が得意ではありましたが、最近では、大規模言語モデル(LLM)を用いた生成AIが登場し、人間に近い流暢な会話をすることまで可能となりました。

しかし、AIは手段にすぎず、またAIに限界があるのも事実です。生成AIは、過去の膨大な人間活動や知識を学習しますが、まず、その学習元となる膨大なデータの信頼性を評価する必要があります。更に、ディープラーニング(深層学習)をした生成AIが平然と事実と異なる答えを導き出してしまうhallucination(ハルシネーション、幻覚)と呼ばれる現象も生じるために、生成AIの出力内容の信頼性を人間が評価する必要があります。生成AIの出力内容には偏りや虚偽が平然と紛れ込んでいるという事実があるため、生成AIがどのような情報を学習した上で、どのような出力過程を経て出力をしているのかを正しく理解して利用しなければなりません。

生成AIを上手に利用して、より人間らしい経済の姿を築き、人間らしい生活を享受することが重要なことであり、それが目的、Visionです。そうすると、「人間とは何か」ということが問われ、それについて各人が考えていく必要があります。例えば、倫理(生き方の中で中心にあるもの、モラル)観といったものは生成AIには備わっておらず、人間に備わっているものです。また、人間一人一人が、機械とならずに自分の頭で考え、意思をもって行動したり、コミュニケーションする、というのもAIにはできない人間の特徴です。まさに生成AIの登場は、18世紀後半にイギリスで起こった産業革命だけでなく、人間の精神を解放した「ルネサンス」(14~16世紀のヨーロッパで、中世のしきたりに囚われず、人間らしさを求めた新しい文化の動き)にもなぞらえることができるでしょう。

AIは敵か味方か

第1次産業革命が英国で起こり水力や蒸気機関を動力源とする紡績機が出現すると、職を奪われた労働者が、労働環境の改善を求め機械や工場建築物を打ち壊すという運動が起きました(ラッダイト運動、1811年~1817年)。現代のAIにおいても、AIの発展により職を奪われる人がいます。CMではAIキャラクターが使われ始めました。出演者とのスケジュール調整も要らずに低コストで魅力的なAIキャラクターを作ることができるようになり、しかもAIキャラクターには不祥事が生じません。AIにより職を奪われる人から見れば、AIは敵といえそうです。

しかし、AIは明らかに生産性を高めます。AIの発展により職を奪われる人も、新たな能力を獲得しAIを上手に利用して高付加価値な人材となる必要があります。国もこのような人達を支援するために、リカレント教育に対し教育訓練給付制度を設けています。著作権といった法的な制度整備も進められています。AIを敵とみなすのではなく、AIと共存できる能力を磨き、AIを味方につけ生産性を向上させるという発想の転換が求められています。

では、AIと共存できる能力を磨いた高付加価値な人材像とは、どのようなものなのでしょうか。次回は、この点について考えてみたいと思います。


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