でんた丸ブログ
「資産の販売等」に係る収益と、それ以外の収益の益金算入時期
前回は損害賠償請求権の認識基準として実現主義や権利確定基準が採用されており、法人税法22条4項の公正処理基準が根拠とされていると書きました。この22条4項においては、平成30年度改正の際に、「別段の定めがあるものを除き」という文言が追加され、当該「別段の定め」として同法22条の2が創設されました。22条の2は、企業会計基準基準第29号「収益認識に関する会計基準」制定に際して、「資産の販売等」に係る収益を益金として認識する時期と額について定めたものです。
22条の2はこのように「資産の販売等」に係る収益を適用対象としており、これ以外の例えば損害賠償請求権といった収益は適用対象外です。従って、平成30年度改正で22条の2が創設された後でも、損害賠償請求権の益金算入時期は22条4項に基づき実現主義や権利確定基準により判断されます。
以上をまとめると、次のようになります。
・「資産の販売等」に係る収益の益金算入時期の根拠条文→22条の2第1項~第3項
・それ以外の収益の益金算入時期の根拠条文→22条4項(実現主義や権利確定主義)
過年度売上金の横領が当期に発覚した際の、消費税の取扱い
過年度売上金の横領が当期に発覚した際に、消費税はどのように処理すればよいでしょうか。
この点、過年度売上に係る現預金を横領された際に、横領された会社が既に売上を適正に計上していたか否かで場合分けします。
① 横領された会社が既に過年度に適正に売上を計上していた場合
この場合に既に消費税を適正に納付しているときには、修正申告の必要はありません。
もっとも、現預金の当該横領を隠蔽するために経費を架空計上していたなど、消費税を適正に納付していなかった場合には、修正申告をする必要があります
② 横領された会社において当該横領の発覚が遅れたため、過年度に売上を過少計上していた場合
この場合には、当該横領により会社が認識できなかった売上に対応する消費税分につき、修正申告により納付する必要があります。
なお、上記②の場合には、その遡って修正した課税期間の課税売上割合を再計算する必要もあるので、ご注意ください。
法人が支払を受ける損害賠償金に係る損害賠償請求権の益金算入時期
上場会社等100社のうち約1社は会計不正(粉飾決算と資産の流用)がなされており、その会計不正の内訳は、粉飾決算が8割、資産の流用が2割です。このように法人が横領(資産の流用)等の不法行為の被害を受けることはままあるところ、法人が例えば横領により損害を受けた場合、私法上は、その損害の発生と同時に損害賠償請求権が発生することになります。また、簿記の仕訳上も不法行為による損失と損害賠償請求権が両建て計上されます。では、法人税法上、当該損害賠償請求権をいつ益金算入することができるのでしょうか。私法上、観念的・抽象的に損害賠償請求権が発生したといっても、当該権利の相手方、金額などが明らかにならなければ権利行使ができず回収もできません。
法人税法では益金の認識基準として一般に実現主義や権利確定基準が採用されている(同法22条4項の公正処理基準が根拠とされています。)ため、実現主義や権利確定基準に基づき、益金の算入時期を判断します。そして、当該損害賠償請求権が「実現」や「確定」したといえるためには、その相手方、金額その他権利の内容及び範囲が確定している必要があり、「実現」や「確定」をしたといえる時期に益金算入されることになります。なお、損害賠償請求権に係る回収可能性の問題は、貸倒損失の計上や貸倒引当金の設定に関わる問題であり、今回の益金算入時期には影響しません。
法人税基本通達2-1-43では損害賠償請求の相手方が法人の役員又は使用人以外の「他の者」である場合の損害賠償請求権の益金算入時期について定めていますが、相手方が法人の役員や使用人の場合には、同通達では明らかではありません。学説としては、同時両建説や異時両建説があり、これら学説の内容を考慮すると、当該損害賠償請求権が「実現」や「確定」したといえるタイミングで益金計上されるものと整理されます。
前期損益修正の税務上の取扱い
前期損益修正自体は企業会計原則第二の六で認められています。そこで、前期損益修正益を会計上計上する場合に、税務上は、修正申告すべきでしょうか。また、前期損益修正損を会計上計上する場合に、税務上は、更正の請求をすべきでしょうか。この点については、当該前期損益修正という会計処理が税務上、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(いわゆる「公正処理基準」、法人税法22条4項)に該当するか、と言い換えることができます。
ここでは、東京地判平成27年9月25日税資(税務訴訟資料)265号順号12725[過年度外注費当期損金算入事件]と東京地判平成25年10月30日判時2223号3頁[TFK事件](控訴審:東京高判平成26年4月23日訟月(訟務月報)60巻12号2655頁)という2つの裁判例を整合的に理解するために有効な次の基準を、私見ですがご紹介します。
すなわち、①当初の取引時に納税者が分かり得たにもかかわらず前期損益修正の会計処理をした場合には、公平な所得計算を実現し納税者の恣意を排除するという法人税法独自の観点からして、修正申告又は更正の請求をすべきとされます。
②一方で、納税者が当初の取引時には分かりえなかった収益や原価・費用・損失の存在が後になって判明したという場合には、益金又は損金の計上時期に関し納税者の恣意は問題とならないため、それが判明した事業年度の益金又は損金とするのが相当であり、過年度に遡って修正すべきではないとされます。
なお、法人税法上、修正申告や更正の制度(更正の請求の制度を含む。)があることに鑑みて、後に修正すべきことが発覚した場合には、過去の事業年度に遡って修正することが予定されており、原則は修正申告や更正の制度(更正の請求の制度を含む。)を利用することになります(更正の請求については、「更正の請求の原則的排他性」と呼ばれています)。
(参考)
・過年度外注費当期損金算入事件の事実の概要:納税者が過年度の外注費の計上漏れに気づき、当期に前期損益修正損を計上したところ、所轄税務署長から法人税・消費税の更正処分を受けた。
・TFK事件の事実の概要:会社更生法の適用を受けた貸金業を営む消費者金融会社が、過払金返還請求権が更生債権として確定したことを受けて、かつて受領した制限超過利息等に対して納付した過年度の法人税額について、後発的理由による更正の請求(国税通則法23条2項1号)をしたところ、所轄税務署長から、更正すべき理由がない旨の通知処分を受け、還付が認められなかった。
上記2つの事件において、各納税者は当該処分の適法性を裁判で争いましたが敗訴しました。
暗号資産税制の国際比較
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今回は暗号資産税制の解説の最後として、個人の所得税に絞って、暗号資産税制の国際比較を行います。
1.アメリカ
キャピタルゲイン課税
・1年以上保有した場合、最大20%までの税率で課税
・1年未満の保有の場合は、通常の累進課税
2.イギリス
キャピタルゲイン課税
一定の場合、税率20%
3.ドイツ
①1年超保有している場合には、原則、非課税
②1年以下保有の場合には、1年の利益合計が600ユーロ以下であれば非課税
4.フランス
キャピタルゲイン課税
・税率30%(ただし、累進税率が30%より低いときには累進課税を選択可)
・年間の利益が305ユーロ以下は非課税
なお、暗号資産間での交換をしてもキャピタルゲイン課税の対象になりません。
このように20~30%という固定税率が諸外国では採用されていますが、日本では累進税率となり最高税率が45%(住民税込みで55%)と諸外国に比して税負担が重くなっているため、海外に移住する暗号資産投資家が現れてきています。
そこで日本において暗号資産の業界団体、自主規制団体から一律20%の税率が適用される申告分離課税への税制改正の要望が出ています。