でんた丸ブログ
相続税額の取得費への加算
被相続人から相続等(「等」とは、遺贈(死因贈与を含む。)のことをいいます。以下同じ。)により取得した財産を、その後一定期間内に譲渡した場合には、譲渡益を圧縮することができる特例制度が租税特別措置法に定められているので、今回はこの制度についてご紹介いたします。
【相続財産に係る譲渡所得の課税の特例について】
相続等による財産の取得をした個人で、その相続等につき納付すべき相続税額があるものが、相続開始があった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に、相続税の課税価格計算の基礎に算入された資産(一定のものを除く。)を譲渡した場合には、その譲渡所得に係る取得費に、一定の金額を加算し、譲渡所得の金額を計算することができる(租税特別措置法39条)。
(注1)相続税の申告期限:相続の開始があったことを知った日の翌日から10月を経過する日(相続税法27条1項)
例えば、相続の開始があったことを知った日が令和6年6月10日の場合には、相続税の申告期限は令和7年4月10日になります。この場合において、本特例が適用されるための譲渡の期限は、令和10年4月10日になります。
(注2)本特例が適用される場合の譲渡所得は、以下の算式により計算することとなります。
総収入金額-(取得費+取得費加算額+譲渡費用)=譲渡所得の金額
(注3)(注2)における取得費加算額(本特例適用前の譲渡益の金額を限度とする。)は、以下の算式により計算することとなります。
相続税額×(譲渡資産の相続税評価額÷相続税の課税価格)
会社法上の分配可能額規制(その2)
今回も前回に引き続き、分配可能額規制にまつわる論点を取り上げていきます。
3.分配可能額規制違反を予防するために、会社が採るべき方策
・分配可能額規制の適用範囲や分配可能額の計算方法について正確な理解をする。
【分配可能額の計算方法】会社法は、債権者と株主との利益調整の観点から、分配可能額の計算において自己株式の処分の場面で分配可能額を容易には増やせないような政策的判断をしている。
・自己株式の取得枠の設定を決議する段階で、実務上は、予防的に当該設定額の分だけ分配可能額があたかも減ったかのように考えておく。
※法律上は枠の決議をした段階では分配可能額は減らず、会社から委託を受けた信託銀行等が個別の取得行為をする段階で、当該取得した自己株式の帳簿価額分だけ分配可能額が減ることになる。
・分配可能額に関する会社内部のチェックは、総務・法務部門と経理・財務部門の双方で行うとするか、又は法務と財務の両方の観点から企業行動を全体的にチェックできる経営戦略部門を設置し、そこでチェックする。
・分配可能額の計算においては、単に確定した計算書類だけでなく、決算後の剰余金の配当や自己株式の取得についてもみていく必要がある。
・完全子会社であっても、親会社とは異なる債権者がいるので、会社法上の分配可能額規制が課される点を意識する。
4.会計監査人の責任の有無
2006年の会社法施行により、計算書類の中の利益処分案が廃止され、監査対象から外されたという明確な経緯があるため、会社に分配可能額規制違反があったとしても、会計監査人に法的責任はないという点に異論はないようです。
利益処分案の廃止とともに株主資本等変動計算書が新設され、この株主資本等変動計算書は監査対象となりますが、会計監査人には株主総会における違法な剰余金の配当の決議を差し止める権限を有しないため、会計監査人に法的責任があるとするわけにはいかないということです。
もっとも、コンプライアンスの観点から、会計監査人が分配可能額規制違反を予防することが期待されています。
(注)監査役等(監査役、監査委員、監査等委員)は、株主総会に上程される議案の適法性を監査する立場にあるため、会社に分配可能額規制違反があった場合には、責任問題が発生します。
会社法上の分配可能額規制(その1)
3月決算の企業では、6月下旬に株主総会がありました。株主総会では剰余金の配当の決議がなされるところ、近年、分配可能額規制(会社法461条)違反が増加しているため、今回はこの点を取り上げます。
1. 分配可能額規制違反が増加している背景
・会社はPBRの1倍割れ問題等もあり、株主への還元を促進させようと配当や自己株式の取得を増やしている。
・上場会社では、連結を中心に会社の業績を公表し、総還元や配当性向も連結をベースに考えることが多いが、会社法 における分配可能額は単体で考える必要がある。
・分配可能額に関する会社内部のチェックの主管部門について、総務・法務部門なのか、経理・財務部門なのかが明確に決まっていない。
・金融商品取引法上のインサイダー取引規制への抵触を回避するため、会社は自己株式の取得をする際には、取得枠を設定するだけで、個別の取得行為には会社は関与せず信託銀行等に委ねている。そして、会社が当該取得枠の設定の決議をする段階では、会社法上の分配可能額は減らない。
2. よくある分配可能額規制違反の原因
・自己株式の取得に、分配可能額規制が課されることを知らなかった。自己株式の取得を期中にしていくと、分配可能額の計算において、当該取得時点における自己株式の帳簿価額を控除し、分配可能額を減らさなければいけないが、そうしていなかった。
・自己株式の処分は、自己株式の取得の反対の行為ではあるが、取得の際には上述のごとく、その都度分配可能額が減っていくのに対し、処分の場合には、翌年に次の決算が確定したときに剰余金に取り込まれ分配可能額が増えるという形になる。しかし、分配可能額への反映のタイミングが、このように自己株式の取得と処分とで対照的にならない点を理解していなかった。
・分配可能額の計算において、決算が確定していない間の期間損益を取り込んでしまった。
次回は、今回に引き続き「分配可能額規制違反を予防するために、会社が採るべき方策」及び「会計監査人の責任」について取り上げていきます。
扶養義務者相互間でなされた生活費又は教育費に充てるための贈与
暦年課税又は相続時精算課税に係る贈与がなされた場合に、生前贈与加算の対象となるのは、原則として「贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの」です(相続税法19条1項第1括弧書、21条の15第1項括弧書)。従って、贈与税の非課税財産(相続税法21条の3)は、贈与税の課税価格に算入されないため、上記の生前贈与加算の対象にはなりません。
ここでは、贈与税の非課税財産のうち、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」(相続税法21条の3第1項2号)についてご紹介いたします。
この非課税財産の該当性については、以下の3つのポイントがあります。
当該贈与が、
① 扶養義務者相互間でなされたものであるか
② 生活費又は教育費に充てるためになされたものであるか
③ 通常必要と認められる範囲内のものであるか
です。
以下では詳細を省略して簡潔に紹介するにとどめますので、詳細をお知りになりたい方は、国税庁が平成25年12月に発出した『扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A』をご覧ください。
1.扶養義務者
扶養義務者に該当するか否かは贈与時の状況により判断します。
扶養義務者とは以下の者をいいます。
① 配偶者
② 直系血族及び兄弟姉妹
③ 家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族
④ 三親等内の親族で生計を一にする者
2.生活費又は教育費
・生活費とは、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費 を除きます。)をいいます。また、治療費や養育費その他これらに準ずるもの(保険金又は損害賠償金により補てんされる部分の金額を除きます。) を含みます(相続税法基本通達21の3-3)。
・教育費とは、被扶養者(子や孫)の教育上通常必要と認められる学資、 教材費、文具費等をいい、義務教育費に限られません(同通達21の3-4)。
3.通常必要と認められるもの
必要な都度直接、生活費又は教育費に充てるための贈与である必要があります(相続税法基本通達21の3-5)。
また、「通常必要と認められるもの」は、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産とされています(同通達21の3-6)。
みなし贈与財産 (その2)
前回は被相続人から直接、相続人等に対しみなし贈与がなされる場合についてご紹介しました。
今回は、同族会社を通じてみなし贈与がなされる場合をご紹介します。
例えば、被相続人が同族会社に対して貸付金を有していた場合に、当該貸付金を相続税の課税対象から除くために、相続開始前に被相続人が当該貸付金を免除することがあります。この場合、当該会社に債務免除益が計上され、原則として法人税等が課されることとなりますが、同時に当該会社の株価が上昇します。そうすると、当該会社の株主に免除者以外の者がいる場合、免除時に免除者から当該会社の株主に対して贈与があったとみなされ、その株主に当該株価上昇分に相当する金額について贈与税が課されることになります。
相続税法基本通達9-2では、このような場合を含め、みなし贈与が発生する場合として以下の例示をしています。
① 会社に対し無償で財産の提供があった場合
② 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合
③ 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合
④ 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡があった場合
みなし贈与については、みなし贈与が発生した年度に課税当局から指摘されるというよりも、相続税の調査を通じてみなし贈与の事実が判明し、課税されるケースが実務上は多いようですのでご注意ください。
※ 無意識に発生しているみなし贈与財産は、①暦年課税の場合、相続開始前7年以内に発生したものについて相続税の課税価格に加算され、②相続時精算課税の場合、適用後は相続開始より相当前の期間になされた贈与であっても相続税の課税価格の加算対象になります。